
10/24、TVerの10周年に合わせ、ショート動画機能という新機能がリリースされました。
ショート動画機能のリリースは、TVerにとって大きな挑戦でした。 単なる機能追加ではなく、若年層を中心とした「非目的視聴」のユーザーに、テレビの良質なコンテンツとの新しい出会いをつくるという大きな使命を背負い、これまでに無かった新しい体験を産み出さなければいけなかったからです。
しかも、当時は開発組織内製化の真っ只中だった中で、このショート動画機能の開発に携わったメンバーのほとんどが入社したての新入社員でした。そんな中でどのように開発をしていったのか?どんな風にチームができあがっていったのか?
今回の対談では、ショート動画機能開発の立ち上げから実装・改善までを担った プロダクトマネージャーの田寺琢人(たでぃー)、iOSエンジニア福島友稀(まんたろう)、Androidエンジニア西田龍登(たっつー)の3名に、 インタビュアーの 松岡綾乃(まつおか)・高橋祐記(うきたか) が、プロジェクトの裏側を聞きました。
なぜTVerがショート動画をやるのか?
まつおか:まず改めて、TVerはなぜショート動画機能に取り組んだのか?目的を聞かせてもらえますか?
たでぃー:目的は大きく2つで、1つは「非目的視聴のユーザーへのアプローチ」。タイパの良いサービスだと思ってもらって起動頻度を上げてもらいたかった。特に若年層ですね。 もう1つは「本編コンテンツへの誘導」です。ショート動画を見て満足して終わるんじゃなくて、ちゃんと本編につながるようにしたかった。 ショート動画サービスって世の中にめちゃくちゃあるじゃないですか。その中で「TVerでやる意味」を持たせないといけないと思ってて。特にTVerは1本1本のコンテンツの尺が他サービスと比較しても長いことが多いので、良質なコンテンツに出会ってもらうための”入り口としての”おためしショートに意義があると考えました。

たでぃー:ただ、世の中にすでにある他のショート動画サービスは基本的にショート動画そのものがコンテンツとして完結して回遊できるように設計されていますよね。TVerの場合は本編視聴に繋げることが目的だったため、独自のUIUXを設計しないといけなくて。他サービスを参考にしにくいって意味では難しい部分もかなり多かったです。
うきたか:企画初期の段階からそこまで明確に決まっていたんですか?
たでぃー:コンセプトや目的自体は当初からはっきり決まっていたし、リリースまでブレませんでしたね。事業側でも事前調査をしていて、今すでに他のショート動画サービスで番組を知って、TVerで探すという行動をしているユーザーが一定数いることもわかっていました。このユーザー行動をもっと強化したいし、ワンストップの体験をスムーズに提供できるのはTVerだけだなと。
まつおか:エンジニアの皆さんは、ショート動画機能をやります、って言われたとき、率直にどう感じましたか?
まんたろう:ショート動画機能という施策自体は、単純に普段YouTubeやTikTokもよく見てるので、面白そうだなって思いました。 ただ、同時にというかそれ以上に「やばい、大変そうだぞ」という不安もすごくあって、常に「この開発がやれて嬉しい!」って気持ちと「不安だ…絶対無理だ…」という感情が拮抗してましたね。

まつおか:なるほど、不安があったんですね。
まんたろう:その頃はまだ入社したてでしたし、前職も含めて動画アプリの開発経験がほぼなかったので、正直不安が勝っていたというか、ネガティブな時の方が多かったかも知れません。 でも、当時相談していた上司から「とりあえず小さく始めてみたら?」と言ってもらえたことで少し気持ちが軽くなって、小さく技術検証して、ちょっと動くものを作って、みんなに見てもらって、ブラッシュアップをしているうちに周囲から「これすごくいいね!」って言ってもらって。そこから、「あ、意外とやれるな自分」と自信が出てきて、もっとチームを巻き込もうと思ってより能動的にデザインや仕様の細かい調整を加えたりしているうちに、どんどんポジティブな方の自分が勝っていった感じでした笑
うきたか:あの頃はアジャイル研修などをやっていたタイミングもあって、開発組織全体で「小さくやろう!」という機運が高まっていたのはすごく良かった記憶があります。それがそのままこのチームのカルチャーになっていった感じですよね。同じ時期に入社したたっつーさんはどうですか?
たっつー:僕はもうシンプルにありがとうございますって感じでした笑。入社前から動画の仕事をやりたいってずっと言っていたので、入社してすぐこんな大きな案件をやらせてもらえるなんて!と感動しかなかったです。実は当時、もう一つ別の大きな案件とどちらをやりたい?と聞いてもらって、自分から「ショート動画機能の開発をやりたい!」と希望をしていたのもあって、とにかく楽しんで取り組んでいました。実際やってみると想像以上に技術的にもチャレンジが多かったのも良かったです。

開発チームはどう組成され、どう“フラットに議論できるチーム”になっていったのか?
たでぃー:最初は事業・マーケ・PRなどビジネス・事業側のメンバーと一緒にスタートしました。影響範囲の大きな案件だったので会社としてやるぞ!という意思決定があり、そのあと徐々にデザイナーやエンジニアが合流していく形でチーム組成が進みました。
特徴的だったのは、専門領域を超えて協力するチーム体制が自然にできていたことかと思います。 ディレクター、デザイナー、エンジニアが、境界なく「自分にできることなら何でもやる」姿勢を持っていて、とにかくリリースに向けて全員が全力で走っている感じ。「タスクの押し付け合い」じゃなくて「タスクの奪い合い」って感じでした笑。この文化は強かったですね。
うきたか:それはすごいですね。どうやってそんなチーム体制が実現できたんですか?
まんたろう:たでぃーさんが、毎週の定例で事業背景をめちゃくちゃ丁寧に共有してくれたのが大きかったと思います。テレビ局にどう入稿してもらうのか、どんな制約があるのか、どんなユーザー層を狙うのか…、普段開発だけしていると見えない裏側まで教えてくれて。 だからこそエンジニア側からも「じゃあこうした方がいいんじゃない?」という技術的な提案を先行してできるようになったんです。
まつおか:いじわるな質問かもしれませんが、共有事項が多くなると、会議時間が増えるなどの弊害はなかったんですか?
たっつー:それが、会議も必要最小限でした。たでぃーさんが事前に共有内容を咀嚼して取りまとめてくれたので、ピンポイントに共有を受けられましたし、おかげで僕らは腹落ちしたうえで実装に集中できたんだと思います。これはめちゃくちゃ助かりました。
たでぃー:そこは実はすごく意識してやってました。無邪気にいろんな事業サイドとの打ち合わせに巻き込むととんでもないことになるので笑。基本的なところかもしれませんが、最初の要件定義フェーズでのドキュメンテーションをかなりきっちりやりきったり、課題管理表をしっかり運用したり、プロジェクトマネジメントをしっかりやりきった結果、マネジメントしなくても動いてくれるチームができあがったのかなと。 僕に限らず、アジェンダを持ち込む全員が事前に要点をまとめて来てくれて、効率よく議論ができたので、チームとしてダレるようなことはほとんど無かったと思います。 このあたりは、チームとしての振り返りの中でどんどん磨かれていった部分かもしれません。
うきたか:めちゃくちゃ素晴らしいですね。実際、開発中の議論はどんな感じで進めてたんですか?
たっつー:とにかくフラットでした。スプリントレビューの時も、「issueのゴール」だけじゃなく、「これもできるともっとよくなるよね」みたいな理想案を自然とみんなで話すんです。
まんたろう:エラーケースやUXの細かい議論もめちゃくちゃやりました。「ここってユーザー困るよね?」みたいな話を、PdM・デザイナー・エンジニア・QAで。その結果、シークバーの操作性とかも、すごくこだわることになって。掴める領域を広げたり、オフィスにいる社員に直で触ってもらって意見をもらったり。エンジニアとしてもめちゃくちゃ試行錯誤しました。

たでぃー:配信サービスにおいて没入感が大事っていうのも共通認識でしたし、常に全員が「より良い体験を作るための議論」って理解しているので、「なんでそこまでこだわるの?」なんて人はいないし、上下関係の壁がない。これはTVerの開発組織の強みかもしれません。
ユーザー体験を磨き上げるためのマインドと生成AI活用
うきたか:技術的に「難航したな」とか「チャレンジだったな」と思うことはありますか?
まんたろう:今iOSは段階的なリアーキテクチャを進めているのですが、新しい方のアーキテクチャで作ると、スクロールがカクつきやすいという課題がありました。
パフォーマンス最優先で、あえて一部を旧アーキテクチャでハイブリッドにしたり、スワイプが速すぎる時のログ発火の問題を調整したり……。 ユーザーの体験を邪魔しないための微調整が本当に多かったです。
たっつー:近いですが、AndroidはOSバージョンの幅がiOS以上に広いので、古い端末でもサクサク動くようにするのがとにかく大変でした。 キャッシュの管理を最適化したり、古い端末用の制御を追加したり……。でも、その分うまくいった時の「滑らかに動いた!」感はすごかったです。
まつおか:確かにそれは大規模サービスならではの悩みですし、ショート動画においては重要な要素ですよね。
まんたろう:そういうところに時間を割きたかったからこそ、生成AIを活用した仕様策定プロセスの高速化には当初すごく力を入れました。実装に入る前に、GitHub Issue で“実装できるレベルまで仕様を言語化する”ことを徹底したんです。 「このコンポーネントはどう動くのか」「このフラグはどのケースで立つのか」みたいなところまで、全部テキストで落とし込む。そのうえで、たっつーさんにめちゃくちゃレビューしてもらって、抜けていたエッジケースを全部拾いにいって、 「あ、ここユーザー困るかも」とか「このケース想定してないよね」をどんどん潰していきました。たっつーさんの存在はすごくありがたかったです。
たっつー:いやいや、まんたろうさんのIssueがまずめちゃくちゃ詳細なんですよ笑。 ここまで書いてくれていると「あ、これなら迷わず実装に入れるな」っていう安心感がある。 その上で自分が足りない部分や気になったところを追記していくと、仕様がどんどん強くなっていくんですよね。
まんたろう:そう言ってもらえて嬉しいです笑。 結局、事前に仕様を固められていると、実装フェーズで迷いがなくなるので、スピードも質も全然違うんですよ。どこからが想定外かみたいな境界を曖昧にしないよう、お互いでギリギリまで詰めていました。
うきたか:PRDのブラッシュアップに生成AIを使っていた話、iOSDCの発表でも触れてましたよね?
まんたろう:はい。PRDをそのままAIに食わせて、「仕様のメリデメを整理して」「シーケンス図にして」みたいに投げると、一気にディスカッションの土台ができるんですよ。 むしろエンジニアリングの実装そのものより、仕様調整や合意形成のシーンで生成AIがめちゃくちゃ役に立ちました。 詳細はぜひ発表資料を読んでもらいたいんですけど、TVerの開発プロセスは“生成AIを前提としたドキュメント文化”と相性が良くて、これからもさらに強化していきたい部分ですね。
リリースを終えて、今後への展望
まつおか:実際にショート動画機能をリリースしてみて、皆さんいかがですか?
たっつー:まずは、リリース目標通りに出せたことにホッとしています。(一同笑い)

たでぃー:かなりストレッチな目標を立てていたので、本当にそう思います。ちゃんと出せたことがまずすごい。しかも社内評価も高くて、「次はどうする?」って前向きな話が自然と出てくる。
まんたろう:僕、元々あんまりドラマは見ない方だったんですが、1ユーザーとしてもショートきっかけでドラマを見始めたりしたんですよ。数字を見ても本編再生につながっていますが、「良質な出会いを提供する」という目的が、ちゃんと形になったんだなと実感します。
まつおか:自分自身がユーザーとして潜在的に欲しかったものを自分自身で開発できるっていうのはすごく贅沢というか、素敵なことですね。たでぃーさんはいかがですか?
たでぃー:実際にリリースしてみて感じたのは、やっぱりTVerで配信しているコンテンツの強さってすごいなということですね。テレビ番組って、クオリティがめちゃくちゃ高いじゃないですか。ショートでも、その良さがちゃんと伝わるんですよね。
SNSにもテレビの切り抜き動画ってたくさん上がっていますけど、あれって別に“番組を探すためのサービス”ではないので、ユーザーが本編にちゃんとたどり着けるかというとまた別の話で。高いクオリティのコンテンツと、“本編に出会うための導線”という体験が最初からセットになっているサービスは本当にTVerにしか存在しないので、触ってみてもこれはユーザーにとって本当にいい導線になるなと改めて感じました。
たっつー:そうですね。実際に触ってみて、改めて他のSNSでは得られない体験だなと思いました。ショート動画を見て「あ、このタレントの番組もっと見たい」って思った時に、自然に本編へ行けるのはすごく価値があると思います。
まつおか:ここからさらに、どのようにショート動画機能というサービスを磨いていきたいですか?
たでぃー:やっぱりレコメンドですね。ショート動画機能の強みって“時間的なハードルを越えさせる”ところにあるので、ユーザーにとってタイパを高めるにはレコメンドをより強化していく必要があると思っています。まだフルパワーでは出していないので、ここは確実に伸ばしていきたい部分です。
たっつー:そうですね。あと、今ってショート動画はホームの一部でしか出会えないじゃないですか。あの人や、あの番組のショート動画が見たいと思って検索しても出てこない。コンテンツとの出会いはもっともっと推進したいので、ショート動画と出会える導線を増やすような改善には挑戦したいですね。
まんたろう:僕はエンジニアとして、戦略や施策の検討はたでぃーさんがいい感じにしてくれると信じているので、そういったプロダクトの“思い”をもっとスピーディに、もっと高い品質で形にできるようにしたいです。レコメンドもそうだし、新しいショート動画機能の体験もそうなんですけど、開発プロセス自体をAI活用などでさらにアップデートしていくことで、企画の意図をより早くユーザーに届けられるチームにしていきたいですね。
このチームで働く魅力、そしてこれから
うきたか:最後に、TVerの開発チームで働く魅力を一言ずつお願いします。
たっつー:僕は、自分みたいな入社直後のメンバーが、いきなりショート動画機能みたいな大きい施策に関われるっていうだけで本当にありがたい環境だと思っています。 チャレンジングなテーマが多いし、周りには優秀なPdMやディレクター、エンジニアがたくさんいて、その中で一緒にものづくりできるのがすごく刺激的です。 “挑戦したい”、“大きい仕事を任されたい”って方にはすごく向いていると思います。
まんたろう:TVerは、自分で手を挙げればどんどんチャレンジできる環境だと思います。
みんなが主体的に“自分が前に出る”っていう姿勢を持っていて、タスクを取りに行く文化が自然とできているので、“自分から動きたい人”にはすごく合ってると思います。あと、エンジニアとしては生成AIまわりの環境は本当に恵まれていて、ClaudeのMaxプランを無料で使える会社なんてなかなかないんじゃないかなというのもあります笑。
生成AIを使って開発プロセスを進化させたいとか、新しい技術を試したいって人にとっても、すごく面白い環境だと思います。
たでぃー:TVerは、事業と技術がほんとに地続きでつながっている場所だと思います。
“ただ作る”じゃなくて、“なんでそれをやるのか”から一緒に考えて、チーム全員でプロダクトを前に進めていく。その実感がすごく強いです。ショート動画機能も、みんなが自分ごとで動いてくれたからこそ形になった施策だと思っています。 ユーザー体験を本気で良くしたいとか、事業の手触りを感じながら作っていきたい方にとっては、すごくやりがいのある環境です。一緒に未来のTVerをつくりましょう!
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