TVer サービスプロダクト本部バックエンドEMの和田(@tench_oo)です。
2024年から2025年にかけて、TVerのバックエンドチームは、急増するトラフィックへの対応と、より高度な視聴体験の提供という二つの大きな課題に向き合ってきました。以前のブログでは、AIツールの導入による「開発のあり方の変化」についてお話ししましたが、今回はもう少し広い視点で、私たちが今どこに立ち、来年に向けてどのような準備を進めているのかを共有できればと思います。
1. 2025年の技術的取り組み:柔軟性と安定性の両立
今年、私たちが注力してきたのは、将来のサービス拡大を見据えた「足腰」の強化です。
新アーキテクチャへの移行とパフォーマンスの追求
現在、私たちはAPIの**「新アーキテクチャ」への移行を段階的に進めています。
TVerには、大規模なイベント時に一瞬で数百万のアクセスが集中するという、非常にユニークで難易度の高いスパイク特性があります。これまでは、システムの安定を最優先してオンメモリキャッシュ**を強く効かせてきましたが、一方でユーザーごとのきめ細やかな情報の出し分け(パーソナライズ)を実現する上では、技術的な制約もありました。
新アーキテクチャでは、キャッシュ戦略を再定義し、CDNキャッシュを戦略的に活用することで「スパイクアクセスへの耐性」を維持しながら、バックエンドでの動的な処理能力を向上させることに注力しています。安定性を犠牲にせず、ユーザー一人ひとりに最適な体験を届けるためのパフォーマンスチューニングを、現在も粘り強く続けています。
Spannerによるパーソナライズ基盤の構築
番組数が増え続けるなかで、ユーザーが自分の好みに合った番組にスムーズに出会える仕組みは、もはや不可欠なものとなっています。
膨大な視聴履歴データを安全かつスケーラブルに扱うため、私たちは 「Spanner」を新しいデータストアとして採用 し、その基盤整備を進めてきました。リレーショナルデータベースの信頼性と、クラウドネイティブな拡張性を両立させることで、データの整合性を保ちながらも、高速なパーソナライズを実現する土台を整えています。
画像配信の改善とマルチデバイス対応
TVerは、PCやスマートフォン、CTV(コネクテッドTV)だけでなく、 今年新たにサポートを開始したPlayStation5 など、非常に多様なデバイスで利用されています。それぞれのデバイスに最適な画像を届けるため、専用の画像配信CDNを導入しました。
フロントエンド側で動的にリサイズ指定ができるようにし、 WebP等の効率的なフォーマットを積極的に活用 することで、通信量の削減と表示速度の改善を図っています。現在はWeb版から展開していますが、PS5を含めた各デバイスへも順次適用を進め、プラットフォーム全体の視聴体験の底上げを目指しています。
2. 組織としての変化:より「プロダクト」に近い開発へ
技術的な進化を支えるのは、やはりチームのあり方です。今年は「開発のスピード」だけでなく、「コミュニケーションの質」にも焦点を当てました。
職能を超えた「ワンチーム」の組成
これまではバックエンドやフロントエンドといった職能別の動きが中心でしたが、今年は特定のKPI(重要指標)に向き合うクロスファンクショナルなチームを立ち上げました。
PdM、エンジニア、デザイナー、QAがひとつのチームとして、同じ目標に向かって議論を重ねることで、認識の齟齬が減り、より本質的な課題解決に集中できる環境になったと感じています。
AI開発ツールと人間の役割
以前のブログでも触れた通り、GitHub Copilotに加え、Claude CodeやDevinといったAIエージェントの導入も進めています。
AIに任せられる定型的な作業は任せ、エンジニアは「アーキテクチャの設計」や「複雑なドメインロジックの整理」といった、人間にしかできない領域に時間を使う。そうした役割の再定義が、チーム全体の生産性を底上げしています。
Embedded SREと地道な対話
「開発して終わり」ではなく、システムの信頼性を共に支える文化を作るため、Embedded SRE の体制を強化しました。アプリ担当とSREがタッグを組み、オブザーバビリティ(O11y)の改善を現場目線で進めています。
また、リモートワークができる環境の中で、あえてオフラインで集まる 「プチ合宿」 も開催しました。顔を合わせて将来の構想を語り合う時間は、日々の開発において、数字やドキュメントだけでは伝えきれない「熱量」や「さまざまな課題」を共有する大切な機会となっています。
3. 2026年へのロードマップ:期待に応え続けるために
2026年に向けて、私たちは以下のような領域に注力していく予定です。
- Spannerを活用した1to1コミュニケーションの深化構築した基盤を活かし、プッシュ通知やレコメンドを通じて、ユーザー一人ひとりに寄り添った「体験の繋がり」を強化します。
- セレンディピティのためのコンテンツ発見性向上単に「検索で見つかる」だけでなく、ユーザーがまだ自覚していない「新たな好きな番組」に出会えるような、 セレンディピティ(偶然の出会い) を生むためのデータ構造やメタデータ提供基盤の再定義を行います。
- A/Bテスト基盤による改善サイクルの加速「何がユーザーにとっての正解か」を客観的に判断できるよう、A/Bテスト基盤を整備します。データに基づいた確かな改善を積み重ねていく文化を、さらに強固にしていきます。
最後に
TVerのバックエンドは、放送という「揺るぎない信頼性」が求められる世界と、通信という「柔軟で爆速な変化」が求められる世界の交差点にあります。
私たちが挑んでいるのは、単なるWebサービスの開発ではなく、「テレビの次の10年」を定義するエンジニアリングです。新アーキテクチャという土台ができ、Spannerという武器を手に入れた今、2026年はさらに面白い挑戦ができると確信しています。この巨大なプラットフォームを、自分の手で進化させたい。そんな熱意を持つ仲間と、これからも切磋琢磨していければと思います。