AWS re:Invent 2025 参加レポート

この記事は TVer Advent Calendar 2025 12日目の記事です。

こんにちは。TVerでバックエンドエンジニアをしている横尾です。

先日、ラスベガスで開催された世界最大級のカンファレンス AWS re:Invent 2025 に参加する機会をいただきました。 現地では「AI Agent」というキーワードが至る所で飛び交っており、開発者体験そのものが大きく変わろうとしている熱気を肌で感じました。

今回の記事では、現地のリアルな体験談とともに、バックエンドエンジニアの視点で感じた「AIエージェント元年」の実態と、TVerの開発に活かせる具体的な知見をご紹介します。


1. re:Invent 2025 の歩き方

会場の熱気と移動のリアル

今年も re:Invent はラスベガスで開催されました。The Venetian、MGM Grand、Mandalay Bay など巨大ホテル群が会場となり、セッション間の移動だけで1日2万歩は軽く超えます。

Keynote会場は早朝7時からEDMのDJパフォーマンスで振動し、数万人のエンジニアが一堂に会する光景は圧巻でした。この規模感こそが、世界のテックトレンドの中心にいることを実感させてくれます。

AWS re:Invent 2025 Keynote 会場

「英語の壁」を越える参加ハック

日本からの参加者にとって最大の壁は「言語」ですが、今年はテクノロジーの力でその壁が低くなっていました。

  • Google Meet のリアルタイム翻訳: 講演者の英語音声をリアルタイムで日本語字幕化。技術用語の文脈も正確に捉えてくれます。
  • Gemini による即時要約: セッション終了後、Geminiに「今の議論のポイントをまとめて」と投げるだけで、日本語の要約ノートが完成します。

Google Meet リアルタイム日本語翻訳


2. Keynote から見える「AIエージェント」へのパラダイムシフト

"Assistant" から "Agent" へ

AWS CEO Matt Garman の Keynote で繰り返されたのが、このフレーズです。

"AI assistants are starting to give way to AI agents that can perform tasks and automate on your behalf."

これまでのチャットボット(Assistant)は「質問に答える」ことが主でしたが、これからの AI Agent は「目的を与えれば、計画を立て、ツールを使い、タスクを完遂する」存在になります。

TVer の文脈で考えると

Swami Sivasubramanian VP の言葉も印象的でした。

"For the first time in history, we can describe what we want to accomplish in natural language, and agents generate the plan."

これをTVerのサービスに置き換えると、「来週のドラマ特集を組んで」と指示するだけで、過去の視聴データから番組を選定し、CMSに入稿し、編成スケジュールを組む——そんな世界が現実味を帯びてきたということです。


3. セッションレポートとTVerへの活用

ここからは、具体的なセッション内容と、それをTVerのシステムにどう活用できるかを紐解いていきます。

動画コンテンツ処理の自動化

主なトピック: From Hours to Minutes (DEV334), Amazon Nova

長時間の映像からショート動画を自動生成するパイプライン(Transcribe + Nova + Polly)の実例紹介です。マルチモーダルモデル「Amazon Nova」が、映像の文脈(シーンの意味)を理解してカット割りを行う点が革新的でした。

ショート動画生成パイプライン

💡 活用ポイント

  • ハイライト自動生成: 1時間のドラマやバラエティから「見どころ」を自動抽出するようなことができそうです。

  • 文脈理解: 単なる顔認識ではなく「盛り上がっているシーン」を抽出できるため、クリエイティブな判断の補助として活用を検討できます。

"脱・手動" レコメンドとメタデータ生成

主なトピック: Multimedia Understanding on Bedrock, Multimodal Embedding Search

「動画の中身」をAIが理解する技術です。Bedrock を通じてサムネイルや動画内容からメタデータを生成したり、マルチモーダル埋め込み(Embedding)を使って「雰囲気の似た番組」を検索したりすることが可能になります。

💡 活用ポイント

  • タグ付けの自動化: 出演者、ジャンル、雰囲気などのメタデータのタグ付与自動化が可能になりそうです。

  • 検索精度の向上: キーワード検索に加え、「このシーンのような番組」といった直感的な検索・レコメンドも検討ができそうです。

メディアワークフローを統括する「Media Agents」

主なトピック: Media Agents, Content Compliance Automation

動画分析、品質管理、コンプライアンスチェックといった個別のタスクを、Supervisor Agent(監督役エージェント) が統括して自動処理するアーキテクチャです。

コンテンツコンプライアンス自動化

💡 活用ポイント

  • コンプライアンス対応: 配信前チェックをAIエージェントが一次スクリーニング。人間は最終確認のみに集中するフローの構築などが検討できそうです。

  • 自律的な品質管理: エラーなどを検知したら、自動で再処理フローを回すような自律システムの構築も検討できそうです。

Amazon Q Developer と AWS DevOps Agent

主なトピック: Amazon Q Developer, AWS DevOps Agent, Game Day

Amazon Q は、「便利なコード補完ツール」にとどまらず、開発プロセス全体をサポートしてくれるパートナーのような存在になりえると感じました。

特に今回発表された AWS DevOps Agent は、運用のあり方を大きく変えるものです。 「Always-on incident triage(常時稼働のインシデントトリアージ)」により、障害発生時にエージェントがログを解析し、根本原因を特定し、解決策まで提示してくれます。

Game Day での実感

Game Day(ハンズオン形式の競技イベント)では、実際に Amazon Q を使い倒してその威力を体感しました。AWS Workshop Studio という環境で、リアルタイムにスコアを競い合います。

Game Day - Amazon Q による自動コード生成 (Amazon Q がインフラのエラーを確認して改善策を提案する様子)

💡 活用ポイント

  • 開発効率化: エンジニアが「コードを書く時間」を減らし、「どのような機能をユーザーに届けるか」という設計と意思決定の時間を最大化する。

  • 運用の自動化: DevOps Agent を導入し、リアクティブな障害対応(Firefighting)から、プロアクティブな運用改善へとシフトする。


4. おわりに:Renaissance Developer を目指して

AIエージェント時代に、エンジニアはどうあるべきか

今年の re:Invent のメッセージは明確でした。「AI Agent」はツールではなく、共に働くチームメイトになるということです。

AWS CTO Dr. Werner Vogels は、最後の Keynote「Renaissance Developer(ルネサンスデベロッパー)」 という概念を提唱しました。 これは、AI時代に求められるエンジニアの姿として、以下の5つの資質を持つことの重要性を説いたものです。

  1. 好奇心 (Curiosity): 新しい技術や解決策に対して常に探究心を持つ
  2. システム思考 (Systems Thinking): 部分最適ではなく、全体を俯瞰して設計する
  3. コミュニケーション (Communication): 人間ともAIとも正確に対話する能力
  4. オーナーシップ (Ownership): 自分の作ったものに責任と誇りを持つ
  5. ポリマス (Polymath): 深い専門性を持ちつつ、幅広い知識を兼ね備える

その仕事は、あなたのものです

"The work is yours, not the tool's."

この言葉は、Game Day で Amazon Q と共に課題に挑んでいたときに、私自身も強く再認識したことでもあります。

Amazon Q は正確なコードを書いてくれましたが、「どの課題を優先して解くか」「ユーザー(この場合は競技のスコア)にとって最大の価値は何か」を判断することが、今後一層求められるでしょう。

AI Agent は効率を劇的に高め、より大きな課題に挑むための道を開いてくれます。しかし、最終的な品質への責任、そして「TVerを通じてユーザーにどんな体験を届けたいか」という情熱は、AIには代替できません。

re:Invent 2025 で得た知見、そして Renaissance Developer としてのマインドセットを持ち帰り、TVerを次のステージへと進化させていけたらと思います。