TVerの開発組織で本部長をしている脇阪(@tohaechan)です。
先日、GENDA Tech Talk#1 で登壇する機会をいただきました。 今回はその内容を振り返りながら、TVerでの生成AI活用の取り組みについてお伝えします。
登壇資料
当日の登壇資料はこちら
きっかけは開発合宿
TVer社内では3月ごろから、Devin、Claude Teamプラン、Cursorなどを導入していました。
バックエンドの開発にDevinを試し、アプリ開発周りでClaudeを使い、ドキュメント整備周りでCursorを使い…、というような試験的な取り組みです。 ただし組織の全員が使っているというわけではなく、一部の人がどこまで使えそうかを確認している状態。または一部の人は便利に使いこなしているが、業務に余裕がない人はなかなか着手できないというような状態でした。 業務に余裕が無い人ほど使ってほしかったのですが、なかなかうまく展開できないという組織的な課題がありました。
そんな中、バックエンドチームで生成AI縛りの半日合宿を実施しました。 techblog.tver.co.jp
当時のモデルはそこまで賢くなく、生成されたコードに文句が多くありましたが、それでも短時間で動くものができ手応えを感じます。 これをバックエンド開発だけでなく全社的に展開したく、そして自身も生成AI沼にハマるための時間を強制的に作るために、開発合宿を行うことを決めました。
開発合宿に関しては上記の記事にありますが、 合宿では参加者がそれぞれ生成AIを使ってプロダクトを開発しました。 希望者にはClaude Codeを利用してもらいました。自身もここで初めて本格的に利用したのですが、明らかな手応えを実感することになります。 合宿後、エンジニアとエンジニアマネージャーから「Claude Codeを全社で使いたい」という声が多数上がりました。
ちなみに、登壇では「湯河原に行けばすべてが解決します!」と会場で話をしたのですが、生成AIの取り組みだけでなく、チームビルディング的な意味でもとても良かったのでおすすめです。
Claude Code MAXプランの全社展開
この声を受けて(正確には受ける前から動いてはいたのですが、経理周りをどうするかの調整に時間がかかった…)、合宿の成果をGeminiで提案資料にまとめ、役員会でプレゼンテーションを実施。 結果として以下の承認を得ることができました。
- 全エンジニアのClaude Max 20x Proプランの予算承認
- Claudeだけでなく、今後も継続的に投資をしていく
- 新プロジェクトの始動
- 合宿の成果物をベースにした新プロジェクトの始動
というわけでTVerでは7月から全エンジニアがClaude Codeを利用しています!!!
実際に起きた変化
Claude Code導入後、組織に様々な変化が生まれています。 先日の登壇資料にもありますが、いくつか抜粋して紹介・補足します。
エンジニアリングマネージャーの変化
マネジメントに専念していたマネージャーが、再び実装に携わるようになりました。 バックエンドのEMは、MTGの合間にIssueを作成してMTG中にClaudeに実装させるというような流れ。 QAのEMはiOSのE2Eテストの基盤を開発してました。 私も誰もメンテしてない古のリポジトリを調査させて修正させたり、インシデント対応をさせたり、なれないiOSの実装を確認したり…、Claudeを楽しく利用しています。
PdMも開発に参画
技術職以外のメンバーも開発に参画できるようになりました。
Claude Code Actionの環境を整備し、Issue作成→AI実装→PR作成の流れを確立しています(ただ最近はClaude Code Actionがうまく動かず停滞中…) もともとタスク管理をGitHub IssueとProjectで行っていたので、自然な流れで実装を依頼できる点が良かったです。 一方でレビューや検証の量が増えることは課題感としてありますし、パフォーマンス面での懸念もあります。 資料の中で取り上げた一例の話にはなりますが、最初Claudeが出してきたPull Requestにはパフォーマンス上の課題がありました。 加えてテストがもともと書かれてないコードだったので、エンジニアが代わりに動作確認をするなど、完全にPdMが開発をしたとは言い切れないものでした。 ですが、きちんとテストが整備されていたり、負荷試験も同時に行われたり、QAを手厚く行うようにするなど、周辺環境が整いさえすればエンジニアなしで完結する可能性は高いので今後もトライしていきます。
その他の生成AI活用事例
資料にも記載していますが
- QA分析の自動化
- ペルソナ作成の自動化
など、実装とは直接関係ありませんが、開発プロセス全体で見ると大きく影響する部分での生成AI活用も進んでいます。 他にもドキュメント整備や運用の自動化なども進んでいます。
見えてきた課題と対応
生成AI活用が進む中で、新たな課題も見えてきています。
レビュー・検証のボトルネック化
個人の生産性が向上した結果、レビューや検証工程がボトルネックになるという新たな課題が生まれています。 一つの課題を解決すると次の課題が顕在化する——これは組織が成長している証でもありますが、マネージャーとしては先回りして対応策を準備していく必要があります。
組織全体への展開
開発組織では生成AI活用が着実に進んでいますが、会社全体で見るとまだ活用の余地が大きく残されています。 そこで、まずエンジニアが先行して成功事例を積み重ね、その知見を組織全体に展開していく戦略を取っています。
「習うより慣れろ」の精神は、エンジニア以外のメンバーにも当てはまります。 組織全体での活用を加速させるには、まず実際に触れてもらう機会を作ることが重要だと考えています。 今後は、エンジニア向けの開発合宿に加えて、他部門も交えたミニ合宿なども企画していく予定です。
おわりに
生成AIの価値は、コーディングだけにとどまりません。開発プロセスの様々な場面で活用することで、組織全体の開発速度を向上させることができます。 生成AIの知見を持つエンジニアは、設計・実装だけでなく、組織全体の生成AI活用をリードする役割も担っていけると良いと思っています。 TVerは「全員が作り手になる組織」を目指して、これからも挑戦を続けていきます!
TVerでは生成AIを活用して新しい開発文化を一緒に作っていく仲間を募集しています。