NAB Show 2025 参加レポート

はじめに

こんにちは。広告プロダクト担当の 大野です。 2025年4月6日から9日にかけて、米国ラスベガスで開催されたNAB Show 2025に、TVerからは今回3名で参加しました。

NAB Showは、毎年ラスベガスで開催される世界最大級の放送・映像・メディア業界向け展示会・カンファレンスです。世界中の企業が最新技術や製品を発表し、業界の最新トレンドや未来像を学ぶことができる場として、日本からも多くの放送関連企業が出展・参加しています。

このブログ記事では、NAB Show 2025での私の参加内容についてご紹介します。

今回NAB Showに参加した経緯

日本では、AVOD(広告付きビデオオンデマンド)サービスの数が、米国や欧州と比較してまだ少ない状況にあり、技術的な最新情報の収集も主に英語圏からの情報に頼らざるを得ない側面があります。そのため、最新トレンド、特に広告関連やVOD配信に関する技術動向を直接把握することを目的として、今回NAB Showに参加しました。

NAB Showでは、多くの企業がブースを出展しており、最新の製品や技術トレンドを直接確認できますが、私は展示ブースの見学は最小限とし、同時開催されているカンファレンスへの参加を中心に行動しました。カンファレンスでは、グローバルな放送業界の動向や、それに関連する広告技術に関する貴重な情報を得ることができました。

NAB Show 2025トピック

個人的に気になった3つのポイントでNAB Show 2025トピックを紹介します。

AI関連

NAB Showではここ数年、AI関連のブースやセッションが増加傾向にありましたが、今年も多くのAI関連セッションが開催されていました。私が参加したセッションも大半がAIに関するもので、特に業務効率化を支援するAIエージェント(Agentic AI)に関する内容が目立った印象です。

中でも特に印象的だったのはDecentrix社のセッションで、地上波広告とCTV等のデジタル広告では、広告購入システムやデータ管理の方法が異なるため、従来のエクセルベースの作業では広告のバイイングやプランニングの作業が複雑化している課題に対し、ユーザーがクライアントからの与件の指示を出すだけでAIエージェントが最適なメディアプランを自動で作成・提示するというデモンストレーションが紹介されました。

配信プランニングのような複雑な作業や定型的な反復作業をAIエージェントに任せることで、人間はより戦略的・クリエイティブな業務に集中できるようになり、結果として広告の価値をさらに高められる可能性があると感じました。ただし、セッション内でも強調されていましたが、AIに全ての作業を委任するわけではなく、最終的な意思決定は人間が担うという部分は残るので、全ての業務がAIに代替されるわけではないことを留意する必要がありそうです。

続いて、Interra Systems社のセッションでは、字幕制作の効率化が主要テーマでした。AIを活用してASR(自動音声認識)やリップシンク(口の動きとの同期分析)技術の精度と速度を高め、さらにAI翻訳による多言語展開を通じて品質向上を目指すという同社の取り組みが紹介されました。既にOpenAIのWhisperなど生成AI技術により音声認識精度はかなり向上しているので、これらの作業も効率化と高精度化の恩恵は受けやすい部分かと思いました。

また、Genies社、Run3TV社、NVIDIA社のセッションでは、AI技術が多言語吹き替えの際に俳優の口の動きを再合成して自然に修正ができる技術が実用化しつつあったり、将来的にはAIアバターがニュースキャスターなどの役割を担う可能性について活発な議論が交わされていました。

さらに、これらの議論の中で、 今後ATSC 3.0対応テレビ(NextGen TV)が普及すれば、地上波放送と連携したゲームやAIアシスタントなど、インタラクティブなコンテンツ提供が本格的に可能となり、これがテレビ広告収益の更なる拡大につながる可能性が示唆された点も、今後のテレビ端末や放送の進化を考える上で非常に興味深い内容でした。

SVOD、AVOD、FASTの状況

SVOD(定額制ビデオオンデマンド)のコスト増と解約のしやすさを背景に、複数のSVODサービスのバンドル提供、広告付きVOD(AVOD)への移行、FAST(無料広告付きストリーミングテレビ)を入口としたSVODへの誘導など、様々な戦略が模索されているとの内容がありました(Fastly社、Crunchyroll社、Storyful社、BB Media社のセッションより)。これらの動きは、日本におけるNetflixAmazon Prime Videoの広告付きプラン導入、通信キャリアと連携したSVODバンドルパッケージの提供などと同様の状況と言えるかと思います。

また、LGなどのテレビメーカーも自社プラットフォーム上でFASTサービスを展開していますが、数百ものチャンネルが乱立する一方で、実際に利用されるのは数十チャンネル程度という課題があり、この点について、AIによるレコメンデーションなどでいかにユーザーに選ばれるサービスにするか、といった最適化に関する議論もなされていました。

このようなAVOD・SVODの最適化が求められる中で、個人的に興味深かったのがEvergent社のサービスです。同社はNAB Showにもブースを出展しており、日本でも事業展開しています。提供内容としてはサブスクリプションの収益最適化に特化したサービスで、ユーザーの解約予兆や有料会員化促進、柔軟な価格設定などのサービスを提供しています。今後のSVOD事業において、このようなユーザー毎に最適化したSVODサービスのニーズはますます高まるのではないでしょうか。

ショッパブル広告の可能性

Google社(YouTube担当)のセッションでは、動画本編の映像を解析するショッパブル広告の可能性に関する技術紹介がありました。これはAI映像認識技術を活用し、ライブ配信中の番組内に表示される物体を認識して、視聴者がそれを購入可能にするというものです。VOD配信においては、ライブ配信よりも高精度な物体認識が可能になり、より効果的なショッパブル広告の配信が期待できるとのことでした。

まだYouTubeAmazonで広く実装されているわけではないようですが、この技術の登場により、現在GoogleレンズやApple Intelligenceなどで提供されている、写真に写ったものを購入できる体験が、動画配信においても番組視聴中に気になる商品があったら、その場で気軽に購入できる世界が、遠くない未来に訪れるかもしれません。

個人的には、このセッションでSCTEやVMAPといった既存の広告技術に、ショッパブル広告をどのように実装していくのか、その詳細を聞けたことがマニアックな内容で非常に参考になりました。

NAB Showまとめ

冒頭の参加経緯で述べたとおり、NAB Showでは日々の情報収集だけではなかなか得られない、放送業界や関連アドテクの最新トレンドに触れることができ、非常に刺激的な経験となりました。特に、AIやクラウド活用による放送業界・広告業界の業務最適化については、検証・導入を進めていく必要性を改めて感じました。

これらのトレンドを踏まえてTVerとしてもコンテンツ運用や広告運用におけるAIを活用した業務効率化や高度化をできる余地はあるなと感じました。特に自分は広告領域の担当なので、AIによる広告関連業務の全般の最適化やインストリーム広告を中心にした広告展開をしつつ、新しいフォーマット開発や新しいマネタイズポイントを増やす施策は海外情報も参考にしつつ、模索を続けたいと思いました。

今回のNAB Show参加を通じて、改めて世界的にも放送業界の変化が非常に激しいと感じました。来年のNAB Showはもちろん、今後、放送業界、広告業界でどのような進化が見られるのか、今から楽しみです。

そんな変化の激しい状況ですが、TVerの広告プロダクト開発チームでは一緒に広告プロダクトを開発するメンバーを絶賛募集中です。もちろん広告以外のエンジニアポジションも募集中です。

ご興味のある方は、是非弊社採用サイトをご確認ください。